寄り道の世界線調整

学びには時間と金がかかる

最近読んだ本(2021.8)

これから最近読んだ本について記録がてら、このブログにまとめておきたいと思います。8月は割と読書できてるのがうれしい。

 

「精神科ER救急救命室」 備瀬哲弘(精神科医

 

 都立府中病院の精神科で勤務していた時の、精神科医によるエッセイ。

 ERとはEmargency roomの略語で、日本語で「救急室」「救急外来」を意味する。救急車で搬送されたり、警察が「精神科に連れて行った方がいいな」と判断された人たちが来て、診察を行うところ。24時間体制で稼働しているため、深夜に症状が出たり問題が起きたりした患者さんが運ばれてくる。救急搬送され、診察と入院で一晩を過ごした後は、翌日他の病院に転院させるシステムとなっているらしい。(精神科ERがある病院は少ないから、すべての患者を受け入れていたらすぐにベッドが埋まってしまう。そのため、都内の病院でローテーションで受け入れ先を決めていく)

 精神科ERがどのような仕組みになっているのか、その中での精神科医としての葛藤などが描かれている。症例も沢山出てくるので勉強になる。難しい言葉はあまり使われておらず(たまに専門用語は出てくるが、ちゃんと注釈が入っているので読みやすい)、そこまで構えなくても読めるのがいい。

 

セックスレスキュー」 大橋希 

 

 性的な問題を抱える人に対する心理療法などについて書いてあるのかなと思って手に取ったら、全然違って驚いた。セックスレスで苦しんでいる女性に対し、話を聞いて、実際に性的な相手を「奉仕隊」として提供する人の話だった。もちろん臨床心理士でも、公認心理師でもない人を取材した書籍。

 心理職としての多重関係とか倫理観を先に学んでいる者としては、頭がクラクラしてくる内容だった。けど、確かにこの方法で救われている人もいるんだなと思うと「心理療法とは何だろう」「私は何ができる臨床心理士になりたいのだろう」と考えさせられた。

 また、そのカウンセリング室に駆け込んでくるクライエントは、うつ状態で服薬している人や心療内科に通院している人も多いと書いてあった。そして普通の心療内科・精神科や臨床心理士とのカウンセリングでは「セックスレス」について相談しにくいということが書かれていた。「夫婦のコミュニケーション不足」といったぼんやりとした表現でしか話せず、結局心療内科やカウンセリングに通っても根本的なセックスレスの解決にはたどり着けない、など。勇気を出してセックスレスであることを相談しても、「夫婦間のことには介入できません」などと言われたこともあると、書いてあった。

 セックスレスで苦しくて苦しくて、そのような場所(性の相手を紹介してもらえる場所)を訪れる人の気持ちを知るためには、読んでみてもいい書籍だと思った。セックスレスで離婚する夫婦も多いよね、表面では「性格の不一致」みたいに表現されるんだろうけど。特に家族療法とかやってたら、セックスレスについても勉強しておく必要がありそう。

 

代理出産 生殖ビジネスと命の尊厳」 大野和基 

 代理出産が進んでいるアメリカで、実際に代理出産した夫婦、代理母代理出産で生まれた子どもに対して取材した結果が書かれている。

 代理出産とは、何らかの事情で出産できないカップルが、第三者に依頼して子どもを産んでもらうことを指す言葉である。「人工授精型」と「体外受精型」が存在する。「人工授精型」とは、依頼者の夫の精子代理母の子宮に注入する方法であり、「体外受精型」とは、依頼者夫婦の精子卵子体外受精させ、受精卵を代理母の子宮に注入する方法である。

 この本の良かった点は、代理母に対する身体的リスクや精神状況についてたくさん書かれている点だと思う。代理出産を依頼する夫婦側の考えや気持ちも書いてあるが、それ以上に、代理母に対して圧し掛かる心身的負担は想像以上であることを教えてくれる。結局、経済的に弱い人が報酬目当てで代理母を引き受けることが多い。しかし、他人の遺伝子が入っているとはいえ、自分のお腹の中で育てていれば、もちろん愛情が湧いてくることは想像に難くない。「他人の子どもだ」と思いながら、お腹の中で子供を育てる代理母の気持ちを考えると苦しくなった。人助けの気持ちで引き受けたとしても、想像以上に心身に負担がかかり、最悪の場合、代理母が死に至ってしまうこともある。妊娠はそれくらいリスクのある行為である。

 仮に、自分が出産できない身体になったとして、代理出産を依頼すること考えているカップルがいるのだとしたら、一度は読んでおくべき本だと思う。倫理的な問題は考え始めたらキリがない。子どもが欲しい気持ちも分かる。分かるけど、代理母にこれだけの代償を払わせてでも行うべき行為なのかは疑問に思う。知識がない、知らなかったじゃ済まされない問題だと思う。

 依頼者と代理母をマッチングさせる代理業者の悪徳さ(もちろん誠心誠意行っている業者もいるとは思うのだけど)なども書かれている。トラブルも多い。代理母がロボットのように扱われているところを読むと、ものすごく苦い気持ちになった。世の中の縮図かもしれないが、この問題には向き合う必要があると思う。

「認定遺伝カウンセラー」の仕事にも興味があるので、この手の話はたくさん読んで学んでいきたい。

 

「怖くない痛くないつらくない無痛分娩」 林聡(産婦人科専門医)・柏木邦友(麻酔科専門医)

 

 無痛分娩とはなんぞや?名前は聞いたことあるけど、詳しくは知らない…といった疑問に対して、丁寧に書かれている本。無痛分娩について全く知らないけど、勉強したい!という人にとってちょうどいい本だと思う。

 無痛分娩の仕組み、麻酔の効果、当日の流れ、副作用やリスク、和痛分娩(痛みを和らげる分娩)や普通分娩(昔からある分娩法)との違いから、病院の選び方や費用など具体的なことまで書かれている。

 普通分娩か無痛分娩、どちらを選んだらいいんだろう?と悩んでいるカップルは、この本を読むことで、検討するための知識を得ることができると思う。一般人向けにやさしい言葉で書かれているのでおすすめ。

 自分が妊娠出産したことがない、というのももちろんあるけど、本当に周産期についての知識がないなと思う。性教育があまりに遅れている日本で、無痛分娩について教えてくれ!というのは少々先急ぎすぎだとは思うけど、妊娠出産の過程についてはもっと詳しく教えてくれてもいいよね。中高生が出産することだってあるんだしさ。

 

 ちなみに、無痛分娩を行った人の方が産後うつになる可能性が低いのではないか、という研究結果が出ているということも書かれていた。(原論文はまだ読んでないのでどの程度の信憑性があるのかが分からないが)ここについては後でちょっと調べてみたい。

 

長くなりましたが、以上です。これから定期的に更新できたらいいな。